アニマルセラピーの種類や癒し機能、歴史、向いている犬種、問題点

アニマルセラピー

「アニマルセラピー」は動物を用いたセラピー療法の一つで、世界各国で認知され、科学的にも証明されている療法です。

ではアニマルセラピーとは、実際にどのような場所でどのようなことを行うものなのでしょうか。

この記事では、アニマルセラピーの種類や機能、歴史、向いている犬種、問題点などについてまとめました。

アニマルセラピーとは

アニマルセラピー

アニマルセラピーとは、動物とのふれあいを通じて安らぎを得ることで精神的な健康を回復させ、生活の質(クオリティ・オブ・ライフ)の維持や向上を目指した療法の一つです。

長期入院を余儀なくされ生きることへの意欲が低下している患者や、身体の障がいでリハビリを必要とする患者に「動物の世話をする」という目的を与えることで、生きる希望を持たせたり、作業を通してリハビリを促したりします。

アニマルセラピーは、もともとは海外で発祥したもので、日本だけでなく世界各国で実施されています。

パートナーとされる動物には、犬や猫、馬、イルカ、ウサギなどの情緒が安定した賢い動物が用いられることが多く、それぞれの名を取り「ドッグセラピー」「ドルフィンセラピー」などとも呼ばれます。

 

アニマルセラピーの歴史

アニマルセラピー

アニマルセラピーの起源は、古代ローマ時代に傷ついた兵士のリハビリに乗馬を用いたこととされます。その名残で現代でも「乗馬療法」が行われています。

ほかに1700年代にイギリスの精神障がい者施設で、患者に感情をコントロールする能力を身につけさせる目的でウサギやニワトリが用いられていたことや、1800年代にドイツで知的障がいを持った人たちのコミュニケーション能力を高めるために犬や猫とふれあわせたとの記録が残っています。

また1800年代には、乗馬が麻痺を伴う神経障がい患者のリバビリに役立つという報告もあがっています。

以降、世界各国で身体に障がいを持った人や心に傷を負った人たちへの治療の一つとして取り入れられてきました。

 

アニマルセラピーの癒し機能

アニマルセラピー

アニマルセラピーの役割として最も期待が持てるのが、その名の通り「セラピー」です。ストレスの軽減や癒しなどの心理的安定を促すことはもちろん、コミュニケーション能力や自立心の向上も目的としています。

犬や猫を飼っている人はストレスが少なく長生きをする傾向にあるといわれるように、動物は人間を癒してくれます。それと同時に人と人との潤滑油の役目も担ってくれることもあります。動物がいることにより、初対面の人でも比較的すぐに打ち解けることができた経験がある人も多いのではないでしょうか。

また山口県の岩国医療センターにて、セラピー犬3頭ががん患者の緩和ケアを目的に定期的な訪問をするようになってから、患者と医療従事者間のコミュニケーションが円滑になったり、患者やその家族、そして医療従事者にも癒しが確認できたりと、その有効性が報告されています。

2013年にはイギリスで、犬と生活を共にする高血圧患者の血圧が低下したとの研究結果が出ています。近年、このように犬や猫とふれあうことで「愛情のホルモン」とも呼ばれる「オキシトシン」が分泌されてストレスが軽減されるということが、広く知られてきています。

荒んだ心を穏やかにしたり、孤独を感じ心を閉ざした人の心を開いたりと、動物は人間の心を癒して生きる希望を与えてくれるほか、身体の治療を目的とした癒しをももたらしてくれます。人間がアニマルセラピーで受ける恩恵は計り知れません。

 

アニマルセラピーの種類

アニマルセラピー

アニマルセラピーの種類

動物介在療法(AAT)
動物介在活動(AAA)

アニマルセラピーという言葉は日本独自の造語です。

海外では、その種類により「動物介在療法」「動物介在活動」と呼び分けられています。またアニマルセラピーとは違いますが、動物を用いて行われる教育を「動物介在教育」と呼びます。

 

動物介在療法(Animal Assisted Therapy=AAT)

人間の医療現場で医学的な治療を目的に、医師や看護士、ソーシャルワーカーなどの医療従事者が動物ボランティアと協力して行う補助療法です。

患者の状態に合わせて治療目的を設定して、心や身体、社会的機能の向上を目指します。

 

動物介在活動(Animal Assisted Activity=AAA)

特別な治療結果を目標とはせず、学校や福祉施設、病院の入院患者などを対象にして、動物とふれあうことで、心の安定や生活の質(クオリティ・オブ・ライフ)の向上を目的とする、癒しや教育的な意味合いがメインの活動です。

 

動物介在教育(Animal Assisted Education=AAE)

教育者や専門家が動物を用いて、教育計画や学習計画に基づいた教育を行うことを指します。

子供たちに動物との正しい接し方や、命の大切さを伝えることを目的とします。

 

アニマルセラピーの世界的な普及

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ここでは海外、日本それぞれにおけるアニマルセラピーの現状を紹介します。

 

海外の場合

海外ではアニマルセラピーが積極的に取り入れられています。ふれあいによる癒し(動物介活動)から治療(動物介在療法)まで様々な現場で動物が活躍し、大きな成果をもたらしています。

難読症や吃音症(きつおんしょう)などで人前で音読することにストレスを感じやすい子供を対象に、特殊な訓練を受けたセラピー犬が読書をサポートする活動や、学生の抱える勉強へのストレスを犬が癒す「Paws to de-Stress」と呼ばれるプログラムを導入する大学もあります。

また欧米では受刑者や問題を抱えた児童に保護犬の世話をさせたところ、所内での暴力が減少したうえに出所後の再犯率が下がり、スムーズな社会復帰が可能になったとの報告があります。

このように海外ではアニマルセラピーが日常に浸透しています。

 

日本の場合

日本のアニマルセラピーは、日本動物病院福祉協会や日本アニマルセラピー協会などが動物介在活動(AAA)を中心に活動しているように、患者の心に寄り添う「ふれあい活動」がメインとなっています。

病院や介護施設、学校などで、高齢者とのふれあいや、子供たちに動物との接し方や命の重さを教えることに一役買っていると共に、入院患者やリハビリ中の人たちを励まして安らぎをもたらしています。

欧米では動物介在活動(AAA)に加え、動物介在療法(AAT)も盛んに行われていますが、日本ではAATの普及が遅れています。

ここ数年で犬をコンパニオンアニマル(伴侶動物)と認識する傾向も広まりましたが、外出先でペット同伴可能な場所がまだ少ないことも、日本でなかなか普及しない理由の一つとなっています。

そこには飼い主のマナー意識が低く、衛生面や事故などの心配が払えないという残念な背景もあります。

 

取り組みの具体例

島根あさひ社会復帰促進センターでは、2009年に受刑者が盲導犬候補となるパピーを育成する初の取り組みを開始し、2013年に第一号となる盲導犬をデビューさせました。

また愛知県の児童施設では、心に傷を負った被虐待児童のケアにセラピー犬を導入したり、2014年には千葉県八街市の少年院で犬を通じた矯正プログラムが取り入れられています。

聖路加国際病院でも、2003年に小児病棟にセラピー犬を迎え入れ、長期入院中の子供たちのストレス緩和に役立っています。

このように、日本でも少しずつアニマルセラピーが広まってきています。

 

アニマルセラピーの法規制

アニマルセラピー

現状、アニマルセラピーを行うにあたって必要となる資格や条件は特に設けられていません。

しかし日本ではアニマルセラピー事業を行う際には、動物愛護及び管理に関する法律に基づいて、動物を「展示」する動物園や水族館なども登録の対象となっている「動物取扱業(展示)」の登録が必要となります。

また資格に関していえば、民間団体が行なっている資格認定試験もありますが、セラピストとしての技術や知識を公的に保証するものではありません。

 

アニマルセラピーに向いている犬種

人と犬

ゴールデンレトリーバーやボーダーコリーなど人に合わせて共同作業ができる能力が高い犬種や、犬に慣れていない高齢者や小さい子供にも恐怖心を与えない、小さくて愛くるしいチワワやシーズーなどの小型犬が向いているとされます。

実際の現場では、ミニチュアダックスフンドやシェパード、プードル、MIX犬にいたるまで様々な犬種がそれぞれの特色を活かして活躍しています。

 

アニマルセラピーに向いている犬の特徴

向いている犬の特徴

健康上の条件を満たす
人が好きで友好的
基本的なしつけができている
触れられても嫌がらない
見慣れない物や音に怖がらない
吠えない・噛まない

セラピー犬には、盲導犬や聴導犬のような特殊な訓練は求められません。それぞれの性格により向き不向きがわかれます。

上記の条件に当てはまれば、どんな犬種でもセラピー犬になれる可能性があります。

しかし中には適正テストを設けている活動団体もあります。

 

アニマルセラピーの問題点

アニマルセラピー

非常に良いことだらけに思えるアニマルセラピーですが、動物に大きな負担がかかることが問題点として挙げられます。

動物は「セラピー」という役割を持って不特定多数の人間と接する必要があるため、ペットとして家庭の中で暮らすより、どうしてもストレスや体への負担が多くなります。人間は動物へかかる負担に十分配慮してアニマルセラピーを行ことが重要です。

また患者に「動物アレルギー」があったり、そもそも動物が苦手だったりした場合などはアニマルセラピーを行うことはできません。

 

アニマルセラピストの養成機関

アニマルセラピー

アニマルセラピーに関する知識や技術を学べる学校もあります。

例えば帝京科学大学には、生命環境学部アニマルサイエンス学科にアニマルセラピーコースがあり、かつ医療科学部作業療法学科ではアニマルセラピーの対象となる患者の評価や治療などを学べます。

またNPO法人日本アニマルセラピー協会では、アニマルセラピーを行う「アニマルセラピスト」「セラピー犬」の資格認定も行われています。

アニマルセラピーを行なっている団体の中には、アニマルセラピストの求人情報を公開していることもあるので、各団体のHPを確認すると良いですね。

 

アニマルセラピーを受けたい場合

アニマルセラピー

アニマルセラピーを行なっている事業団体やボランティアが病院や福祉施設を訪ねて行われる場合が多いです。また自治体が団体と連携して、セラピー犬とふれあえるイベントを開催していることもあります。

首都圏ではアニマルセラピーを行っている事業団体やボランティアが比較的多くあります。「受けてみたい」と思ったら、住んでいる地域の広報誌やインターネットなどで情報をチェックしてみてください。

 

人間とペットが良い関係で共存できる環境を

人と犬

そばにいるだけでたくさんの「幸せな気持ち」を与えてくれる動物たち。

辛いことや悲しいことがあった時、飼っているペットが弱った心を癒してくれたという経験をしたことのある飼い主さんも多いのではないでしょうか。動物が人間にもたらしてくれる癒しの力は計り知れません。

アニマルセラピーとして世界各国で認知され、医療や教育の現場でも発揮されている動物の癒しの力ですが、日本での普及率はまだまだ低いです。その理由の一つに「飼い主さんのマナー」の問題が関係しているといわれる現状はとても悲しいことです。

飼い主さん一人ひとりが「責任」を持ち最低限のマナーを守ることで、今よりも人間とペットが良い関係で共存できる環境を作ることができるはずです。その結果、日本でのアニマルセラピーの普及率も上がることでしょう。

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